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2014.06.06(Fri):黄昏人
 第二章 一話
【More...】

 人混みの中に、アスレシアとゼフィオンは立っていた。
 聖都カスラムの街外れにある、傭兵や旅の騎士たちの仕事案内所である。
 先の村で、山犬事件のために食料や水、報酬を受け損ねた彼らの資金は、ずいぶんと心許ないものとなっていたのだ。早急に手を打たねばならないと考え、街に入って宿を確保すると、すぐにここへやって来たのだった。
「適当な仕事を探して、稼ぐしかないか……」
 アスレシアは、目の前に乱雑に貼り付けられた紙を、一枚一枚じっくりと吟味しながら言った。
 壁には、様々な依頼が貼り出されている。隊商の護衛やモンスターの駆除などが一般的だが、中には子守や隣町への届け物などというものもあった。
「害獣かモンスターの駆除あたりが妥当だろうな」
 傍らでゼフィオンが言う。報酬はけして高くないが、特別に危険というわけでもない。多少なりとも腕に覚えのある者であれば、まず間違いなく金を手にできる。
「そう……だな」
 一通り目を通して、アスレシアも肯いた。
「手早く済ませられそうな……」
 言いかけたときだ。
 人混みでごった返す案内所の入り口付近がざわつく。人垣がさっと割れたかと思うと、そこには二人の男が立っていた。二人とも、胸に天秤と硬貨を組み合わせた紋章を縫い取った、黒い衣服をつけている。周囲のざわめきは、この紋章に向けられたものだった。
「仕事を依頼したいのだが」
 大股に係の者の前に行き、二人の男は言った。
「ど……どのようなご依頼で?」
 係りの男が、明らかに怯えた表情で応対する。その反応に、アスレシアは、近くにいた男を捕まえて問うた。
「――あれは?」
 男は一瞬面倒くさそうに眉をひそめ、小声で答える。
「ジルベールの私兵さ。この街で一番力を持ってる大富豪だよ」
「大富豪……」
 貴族でも騎士でもないのに私用の軍隊を持っている人物というのは、たいてい評判が芳しくない。ジルベールという人物も、どうやらその類のようだ、とアスレシアは密かに思った。
「どのようなご依頼で?」
 係りの男が繰り返す。だが、二人の男は少し目を見交わすと、小さく首を横に振った。依頼を請けた者にしか話さぬということだ。
「この中で、誰か依頼を請ける者はいないか。腕が立つ意外に条件はない」
 一人の男が、ぐるりと人垣を見ながら声を張り上げた。しかし、周囲は騒ぐばかりで、誰も手を上げようとはしない。
「これだけ人数がいるのに、誰も名乗りを上げぬとは……。呆れた腰抜けどもだな」
「報酬は十分に出す。働きによっては、一生食うに困らぬ額だ」
 しかし、それでもなお、名乗り出る者はいない。どうやら、ジルベールなる人物は、よほど嫌われているか、恐れられているようだ。
 アスレシアは、険しい面持ちで考え込んでいたが、しばらくしてゼフィオンに低く声をかけた。
「ゼフィオン……。請けよう」
「本気か?」
「ああ……」
 アスレシアの瞳が、暗い輝きを帯びる。
「この依頼……。やつが絡んでいるようだ」
「なに……。わかるのか」
 ゼフィオンの顔つきが変わる。アスレシアは、かすかに唇を歪め、笑った。
「認めたくはないがな」
 ゼフィオンは「そうか」と口中でつぶやくと、明らかに苛立っている様子の二人の男に目をやった。
「誰もいないのか!ジルベール様の恩恵を、貴様らも受けているはずだ!!」
 一人が声を荒げる。ゼフィオンが、その前に進み出た。
「俺たちが引き受けよう」
 その言葉に、周囲が大きくどよめいた。先程、ジルベールの名を教えてくれた男が、アスレシアの袖口を軽く引っ張ってくる。
「お、おい。悪い事は言わねえ。ジルベールと関わるのは、やめておけ」
 男が本気で忠告を与えている事を見て取り、アスレシアは軽く微笑んだ。だが、そんなものに従うつもりは毛頭ない。
「忠告は感謝しよう」
 そっけない返事とともに男の手を払うと、ゼフィオンの隣に立つ。男たちは、値踏みするように二人を観察してきた。
「腕に自信はあるのか」
「なければ、名乗り出ぬ」
 ゼフィオンの返答に、男たちは薄く笑った。
「そっちの女もか」
「俺以上に剣の腕はたつ。弓ならば、俺は誰にも負けぬが」
「ほう……」
「何なら、試してもいいぞ」
 男たちは、小声でほんの少し会話を交わす。だが、他に誰も引き受ける者はいないのだ。選択の余地などあろうはずもない。形だけの相談だ。
「――いいだろう。一緒に来い」
一人が顎をしゃくってみせた。再び人垣が割れ、男たちを通す。アスレシアとゼフィオンは、後に続いて外へと出た。

 風が足元を舞っていく。
 男たちは、無言のままどんどん歩き出す。大通りは人で賑わっていたが、みな、男たちの黒ずくめの姿を見ると慌てて避けるので、声を張り上げたり、手で人を押しのけたりする必要もなく、すんなりと歩いていく事ができた。
「仕事の内容を聞かせてもらおう」
 大通りを抜け、閑静な住宅街に入って、アスレシアは男たちに声をかけた。一人がチラリと彼女を振り返る。
「……来れば分かる」
「準備や心構えがいる。ほんの少しでもいい。情報が欲しいんだ」
 アスレシアは、食い下がった。あいつの影がちらつくのだ。――サニト・ベイ。先程から、ひっきりなしに少年の嗤いが目に浮かぶ。
(必ずやつが関わっている。少しでも情報を入れておかなければ)
 アスレシアの只ならぬ雰囲気に気圧されたのか、男の一人が渋々口を開いた。
「ジルベール様のお姿が、人ではなくなってしまったのだ」
「……どういうことだ?」
 アスレシアは、怪訝な表情になる。
「俺たちにも分からん。何が起こったのか、なぜこんな事になったのか……。とにかく、見れば分かる。俺たちが言えるのは、そこまでだ」
 男たち二人は、渋面を作って顔を見合わせた。その横顔に、恐怖が見え隠れしている。
「魔力、だな。サニト・ベイの仕業に違いない」
 男たちに注意を払いつつ、ゼフィオンがささやいた。アスレシアは、眉間に深いしわを刻みつける。
「しかし、やつは、ただの人間だ。悪魔のような性格だが、魔力は持っていないはず……」
 それなのに、なぜ魔力が絡んでくるのか。知らぬ間に、サニト・ベイは魔力を身につけたのだろうか?もしも、そうだとしたら、考えられる事は唯一つ。
「……あの女伯爵か?」
 アスレシアのつぶやきに、ゼフィオンも肯いた。
「何かと首を突っ込んできているとは、コズウェイル様から聞いている……。あの子供に必要以上の力を貸し与えているのかもしれん」
「余計な事を……」
 ただでさえ危険極まりない人物なのに、魔力などという物騒なものを与えるなど、どうかしている。アスレシアは、小さく呪詛を吐き捨てた。
「とにかく、そのジルベールの様子を見てみなければ、何とも言えないな。心構えができるだけでも良しとしよう」
「そうだな」
 二人は軽くため息をつくと、男たちの後を追った。
 ――市場の喧騒が、怯えたように二人の背後から遠ざかった。
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